零れた言葉は自然に出た物か、それとも咄嗟に出た物か。先程迄の絶望的な感情から、少しだけ、そう本当に少しだけノスタルジックな気持ちが入り込んでくる。
コンクリートで固められた地下室、古びた空調が設置されていて、内壁は木材で囲ってあった。まるで避難生活を想定して作られたような。今だからこそそう思える。実際は父の趣味の部屋だ。深い意味はない。だけどソレが現実に僕達を守るための部屋として機能するとは、当時の父が知る由もない。
「簡単に掃除だけ済ませて、後は食料を集めてきましょう」
「なら掃除は任せた、食い物と飲み物は俺と曽根で集めてくる。孝雄はちょっと休んでろ」
「そうでありますな、力仕事は自分達にまかせて後は頼みましたぞ七海」
僕の意見何てまるで聞く気はないようだ。
いや、きっと潔と曽根なりの優しさなんだろう。精神的に参ってる僕を気遣っての事だ、多分他意はない。そう言う奴らなんだこいつらは。
そうさ、僕は一人で何でもかんでも抱え込んで、凝り固まった考えで結論を出そうとして、ソレが邪魔して今の状況を作り出してきていたんだ。頼れるものはこんなにも近くにいたのに。
昔から何でも相談してきた仲だったじゃないか、でもソレを忘れた訳じゃない。何度も繰返しになってしまうけど、仮に僕が彼等だったとして、こんな狂った話を聞かされても多分信じることは無かっただろう。あり得ない話だ、夢でも見てるのかと、冗談と決めつけてまともに取り合わない。
だけど、潔はそんな僕の話を真剣な表情で聞いてくれた、壮絶に狂ったこの話を、一語一句聞いてくれた。茶化すことなく、笑うことなく、疑うことなく。
「取り合えず座れる状態にはなったかな、孝雄はここに座ってて。私は他の物も掃除しちゃうから」
ほんの少しの間物思いに耽っていた間に、父が愛用していた椅子が綺麗になっていた。七海に手を引かれて座らせられた。ゆったりとした椅子で座り心地は良い。何度か座った事があるのを思い出して、その当時を振り返らせてくれる。
父は厳格な人じゃ無かった。緩くて、暖かくて、そんな父みたいになりたくて、時々この書斎の本を読みに来ていた。そう、この本棚の中で一冊だけやけに状態が悪い本がソレだ。
現実が崩壊していくような異常な現象が起きる中で、主人公がその原因を探り、過去の操作や時間の歪みが重要な要素となる、些細なことが現実全体に影響を及ぼすという点で、今の状況に酷似している。
そうだ、些細な事で未来が変わっていってしまう。今の状況と同じ内容だ。まるであの物語に入り込んだような――。
「あ……あれ」
そこで突如として世界にノイズが走った。大量に、一気に様々なノイズが走っている。同時に世界が何重にも重なりブレる。何故だ、何故このタイミングでコレが起きたんだ、何が変わったんだ。
それと同時に、もう一つ解決していない現象が続く。滅多に起きない事象だから忘れていた、いや、考えないようにしていたんだ。
”――繧ィ繝槭?繧ク繧ァ繝ウ繧キ繝シ繧ウ繝シ繝峨?√Ξ繝吶Ν3逋コ逕”
突如脳内で鳴り響いたあの電子ノイズに似た音声が大音量で流れる。