海神の唄 -[R]emember me-

バタフライ・エフェクト―ケイショウヲナラスダレカ― Re:Ⅷ

 何だ、何が起こった。何が変わった、何が原因で発生したんだ。困惑する僕とは裏腹に七海は掃除を続けている、僕の周囲で起きている事が変わった訳じゃない、
 いや、分かる気がする。
 この事象を僕は経験している、体験している、観測しているはずだ。そう、知っている筈なんだ。ソレが何かが思い出せない。
 もし、この現象が覚えていない周回・・・・・・・・での出来事だったら?
 そうだ、今まで原因不明なノイズの正体が記憶にない一週間で起きた事象であれば、この現象に説明が付くと何となく予想はしていたじゃないか。なら一体何が起きた。この先何が変わる、これから何が起きる。
 ――いや、混乱するな。錯乱するな、思考を整えろ。シナプスの接続を強く保ち考えるんだ。通常未来何て分からないんだ、ただソレが怖いと感じるのはあの景色を、再び見る可能性が限りなく高いという事から来る恐怖だ。
 ならば平然として居れば良いのか?
 どう足掻いても収束してしまう未来へ抗う方法は結局な所何もないのか、だとすれば今この場所に留まっていたとしても、結果は何一つ変わらないんじゃないか。

「孝雄?」

 青ざめた僕に向かって、何かを察した七海が語り掛けてきた。駄目だ、今僕を見ないでくれ。何かが変わったと悟られてはいけない、ようやく掴みかけた希望が、希望的観測が無くなってしまうかもしれない恐怖に襲われる。

「大丈夫、何でもないよ」
「でも、凄い汗だよ」
「少しだけ疲れたんだ、どうすればこの先の未来を回避できるのかずっと考えてたから、思い出したくないものを思い出して、ちょっとナーバスになってるだけだよ」

 表情を保て、口角を下げるな、泳ぐ目線を一点に集中させろ。何かが変わったと悟られるな、何時もの僕である様に振舞え、そうすれば何も問題は無いんだ。

「――分かった、でも本当に何かあったら言ってよ。もう私達は部外者じゃないんだから」

 そう、もう部外者じゃない。関わってしまったんだ、僕が巻き込んでしまったんだ。だからこそ事の重大さを理解できていない、理解してるつもりでもその本質までは分かってない。この先何が起きて、何が原因で終末を迎えるのか、それがどれ程辛く、どれ程厳しく、どれ程絶望的なのかを七海達はまだ理解すらできてないんだ。
 曽根の言う通り、この部屋に居れば少なくとも曽根は助かる確率が格段に上がる。地下室から吹き飛ばされて落下死するなんてことは想定できない。潔も同じだ、この部屋にいる限り何かに頭を吹き飛ばされる事も無いだろう。

 だけど、一番の問題は七海だ。
 一週目も、二週目もどうやって死んだのかが分かっていない。ソレが一番の問題なんだ。
 どうすれば七海の死を回避することが出来るのだろう、曽根、潔の順に死亡が確認されたのち、最後に七海の死亡が確定するというのなら、二人の死を回避することに全力を注げばいいのか。
 それならば一週間この地下室に立てこもれば良い。
 何も問題はないはずだ、そう。何も問題はないはずなんだ。

 なら、何故こんなにも僕の中で警鐘を鳴らす、もう一人の僕が騒ぎ立てるんだ。鮮明に、明確に、確かな意識をもってもう一人の僕が何かを訴えかけてきている気がして仕方ない。

 そんな存在・・・・・、いるはずもないのに。