だからこそ不安が付きまとう。
話す言葉は震えていて、まるで何かに怯えているような子供の様だ。この先何が起きるか分からない、この時点であの終末を回避できるのかどうか否か。それだけが今の僕を恐怖に染め上げていく。
「でも今はソレが無いから、今まで体験した事の中じゃこの事象は発生していないと思う」
「それなら孝雄の精神的負担は軽減出来てるんじゃないか?」
「逆でありますよ潔、コレが原因で孝雄は今物凄く動揺して、どうすれば良いのか分からないのであります」
曽根は良く分かってる、僕が説明するまでもなく現状どんな状態かを理解してくれている。流石同じ趣味を持つ者同士とでもいうべきか。
「でも未来が分からないなんて普通の事じゃない、それの何が怖いの?」
「孝雄は記憶してる中で同じ未来を結果として見てしまっているのでありますよ、つまり孝雄自身はこの先何が起きるのか分からなくなっていても、最終的に行きつく先は分っているのであります。どんなにソレを回避しようとしても、収束する世界には抗えず、またループする可能性があるという事です」
そう、ソレが一番の問題なんだ。
世界は収束する、あの誰もいない世界へと収束してしまう。冷たくなった七海の体を抱き抱えて、世界に絶望する僕が、この星でたった一人泣き崩れる世界へ辿ってしまう。
今もまだ感触が残っているんだ、冷たくなって動かなくなった七海の体、極限まで冷え切った自分の体と、薄い酸素、何処までも黒い透き通った空。そして――。
「なぁ孝雄、お前は最後に何を見たんだ」
ズバッと切り込んで来た質問に、一度心臓の音が跳ね上がった。鼓動が耳まで届いて煩く、走馬灯のように一瞬で広がるあの場面が脳裏を駆け巡っていった。
思わず吐きそうになるのを、寸前で堪え、涙目になりながら口を開いた。
「最初の一週間目、その三日目に世界大戦がはじまる。それに僕達は巻き込まれる事になる」
「――世界恐慌からの世界大戦か、三文小説もビックリな展開だな。そして人類滅亡か?」
「茶化したくなる気持ちも分かるけど、そうなる。僕自身質の悪い夢か、アポカリプス系の小説を読んでる気分になるよ。それで少なくともこの街は跡形もなくなって、皆死んだ」
言葉に出すことも嫌になる、その単語を聞いた瞬間三人とも固唾を飲んでいた。それもそうだ、この先一週間と立たずとして自分が死ぬなんて目の前で予言されたら、一体どんな感情を抱くのか、どんな気分になるのか。
それは、僕自身が一番良く分かってる。
「笑えねぇジョークだな全く」
「あぁ、ジョークだったらどれ程良かったか。最初に死ぬのは曾根、君だ」
その言葉を聞いて、曽根はピクリともせず僕の言葉を待っていた。
「海公園に避難していた街の人と一緒に、爆弾で吹き飛ばされたんだ。爆風で曽根は海公園から投げ出されて崖下に転落。つぶれたトマトの様になって、ソレが最初の一週間の曽根だった」
この中では誰よりも想像力が豊かな曽根は、今の話を聞いてどんな状況になったかを想像していただろう。自分の最後を聞いてどう思ったのかまでは分からないけど、聞いていていい気分になれる話でないことは確かだ。
「――自由落下からの落下死でありますか、パラシュートを持参してなかったのは致命的でありますな」
この状況の中で冷静に分析していた。
ある意味曽根はこの中じゃ大分冷静な方なのかもしれない、この話を実際に起きる話と仮定して聞いているのがその証拠だ。落下死ならば対策は立てられる、そう考えているのだろう。
実際、そんな甘い話でもないけど。