海神の唄 -[R]emember me-

コワレハジメタハグルマ――Re:Ⅳ

 本当のところ、ただ怖いだけなんだ。
 あの景色を見るのが怖いだけなんだ。
 目の前で友達が死んでいく様を見るのが怖いだけなんだ。

 だってそうだろう、マトモに考えてこの先何が起きるのか分かっている絶望しかない世界が来るんだ。トリガーポイントがどこで、何が原因でループしているか、この先起こりえる未来が分かっているのであれば取る行動は一つしかない。

 過去の僕が起こさなかった事象、ただそれだけだ。

 記憶が残っているからこそ分かる、同じ道を進めば結末は変わらない。何かしらの理由であの状態へとたどり着いてしまう。
 それならば、行動しなければいい。このまま走って現実から逃げて――何処へ?

「何でココ・・に――」

 気が付けば海公園に来ていた、つい先ほどまでいた場所。世界の終焉を見た場所に向かって走っていた。息を切らして飛び込んだ場所が、世界終末の場所と言うのも変な気分がする。
 だけど、体はここへ向かって走っていた。僕自身が目指した訳じゃない、特別理由があった訳じゃない。なのに辿り着いた先はこの場所だったんだ。

「なんだよ、本当に何なんだよ!」

 出来の悪い夢以上に質が悪い、記憶に残されていた海公園の景色が二重――数え切れない程のノイズとブレで視界を覆っている。
 理由は明白だ、ココがトリガーポイントになっているんだ。
 この海公園こそが、この世界のループする場所の一つになっているんだ。だからこそこれ程のブレガ生じている、コレが何よりの証拠じゃないのか。
 それじゃ、僕は此処で一体何をすればいい。何か特別な事をしなければいけないのか。

 いや、そう答えを出すのは尚早だ。考えろ、考えろ、考えて考えて思考を加速させろ。問い掛けを止めるな、回すだけ回せ、脳細胞が焼き切れても構うものか、この地獄から抜け出せるなら安い物だろう。
 事の発端は何だ。
 この場所が関係しているのは間違いない、だがそれだけじゃないはずだ。先の一週間と今まで起きた事の乖離性を探すんだ、そうすれば――。

「待てって孝雄!」

 潔の声だ、僕の後を追って走って来たのか。
 気持ちは嬉しいが今はやめてくれ、纏まりそうな思考が分子崩壊していく気がしてならない。答えが出そうなところで邪魔されたくないんだ。

「マジでどうしたんだよお前!」
「――僕にも分からない、分からないんだ!」

 行きつく先の無い感情が、目まぐるしく変化していく常識が、僕にとっての平穏が崩れていく様を潔にぶつけていた。
 いや、分かってるんだ。この訳も分からない感情を誰かにぶつけた所で何も解決しないことぐらいわかっているんだ。でも、それすらコントロールできないぐらい追い込まれている、僕は追い込まれているんだよ潔。

「説明しても理解されない、理解して貰う為の素材ソースも何もない、根拠も証拠も説明できない、現実で起こりえる事が全てじゃないと断言出来ない、そんな事象が仮にあったとして、お前は僕の言葉を信じる事が出来るか、僕の言う言葉を理解できる自信があるか!」
「何言って――」
「あぁそうだ、何を言ってるのか自分自身よく分かってない。こんな与太話誰が信じられる、逆の立場だとしたら僕は何一つ信じられない、だからこそ説明できる自信がない、説得するだけの力が今の僕には無い、だから何も理解できないし説明も出来ない、人知を超えた事象を目の前にして、人が人である為の生存本能をかき乱すような事柄を説明したところでどうせ理解されないんだ!」

 殴り捨てるように、吐き捨てるように。今僕の中で渦巻いている感情を全て吐き出した、混沌としているこの世界で起きている事を理解しようにも、僕自身が理解できていない事を説明することもできない。世界がループしているなんて話誰が信じる、誰も信じようとはしない。そう決まってる、証拠ソースは僕だ。僕自身が一番よく分かっているから、だから――理解されない。

「一度落ち着け、何があったか知らないけど今日のお前、本当に変だぞ」
「分かってる、分かってるんだ。狂ってしまったんじゃないかと僕自身疑いたくなる程に、僕が僕でなくなるような感覚がまだ残ってるんだ、受け止めてしまったら狂ってしまう、いや、もう既に狂っているんじゃないかとすら思えてならないんだ! なぁ潔、僕はどうすれば良い、僕はこの先どう動けばいいんだ、分からないんだ、分からないんだ!」

 困惑した潔の表情が目に焼き付く。コイツは一体何を言ってるんだ、そんな事を言いたげな表情だと瞬時に理解できる程に。

「記憶は時間の連鎖から生まれる四次元の延長線上だ、仮に時間と言う概念が壊れ、ある一定の期間を世界がループしていると話してお前は信じるか! 僕のこの表情を見て、僕のこの訴えを聞き入れる事が出来るか!」
「孝雄、お前――」
「何を見せられているのか分からないんだ、何をすればいいか、どうすれば良かったのかも分からない、逃げ出せない現状からどうすれば脱出できるのかもわからない、あぁそうだ。狂ってしまっているのは世界か僕か、はたまたその両方なのかもしれない。仮に世界も僕も狂っているのであれば潔、お前と言う存在もまた――」