――マトモな感性何てもう何処にも残されていない。
周りのざわめきすら耳に届いていない、錯綜する思考は歪み続けていく。
そうだ、初めからずっと胸のどこかでつっかえていた事だったじゃないか。予想外な事ばかりが起きてソレの事をはっきりと認識していなかった、斜め上の事ばかりを考え、変な持論を組み立てては崩れていく。ソレを繰り返していく内に忘れていたんだ。
そもそもの話だ。
何故世界はループしている、何がトリガーポイントになって世界は繰り返しているんだ。その答えが分からない、目の前に存在している消え去った命達が、再びこうして日常へと戻ってきている。聞きなれた声で、聞きなれた台詞に、見慣れた顔。
そう、危惧するべきところはソコなんだ。
これもまた現実的ではない空想上の過程だ、机上の空論どころの話ではない。多元宇宙論の類と考えるべきなのかもしれない、いや、そんな空想をしている場合じゃない。
僕が記録しているのは連続した二週間、それぞれ別の内容で、最終的に辿り着いたのは冷たくなった七海の体と、世界に僕がただ残されるだけ。
考えたくもないことが脳裏を過り、想像するだけで悍ましい現実が這い寄る様に滲み近づいてくる。
「なぁ、お前本当に大丈夫か?」
潔の言葉は的を得ている、今の僕は正気じゃない。
錯乱、混乱、狂乱――どの言葉も当てはまらないだろう精神状態。困惑しているのは何も僕だけじゃない、こんな僕を見た潔の表情からも同じ感情がにじみ出ているのが分かる。――あぁ、そうさ。狂っているのは僕じゃない。
一体、コレは何週目なんだ?
覚えていないだけで、もしかしたら永遠に繰り返されてる世界を、何度も何度もあの結末を見ては最初のココに戻されている。
考えたくはなかった。
思い違いだと思いたかった。
だけど、先の一週間の出来事である程度合点がいくことがある。
ノイズが走るのは、何度も繰り返してきた世界と離反しているからか?
世界がブレて見えるのは、繰り返されてきた世界との乖離性なんじゃないか?
そう考えると合点がいく。
覚えていない事柄ですらノイズが走り、世界がブレて見えていたのはその所為じゃないのか。ならば一体僕は何度同じ絶望を味わってきたんだ。
何度あの終末を見てきたんだ。
今は、一体何週目の世界なんだ。
答えに辿り着きそうになり、考えていたことが現実に起こりえる。証拠に今のこの現状はノイズだらけで、世界は二重にも三重にも見える。
「あ、おい曽根。丁度いい所に――」
次第に恐怖が襲って来る、繰り返された世界で僕は常に壊れ、精神が侵されていく状況が何度も何度も繰り返されてきたとする。その度に世界はリセットされ、この場所に戻って来る。
もし、もしも仮説として僕の精神状態が限界ギリギリの所になったら世界は巻き戻り、記憶が無くなって新しい一週間を繰り返しているのだとすれば、何故今回記憶が残っているんだ。
何かがオカシイ、仮に永遠とループしていたとするのなら、何故急に記憶を保持したままループに突入しているんだ。
不可解な事だらけだ、同時にこの先何が起きて、どうなるかが分かっている。それが恐怖で、何も考えたくなくなる。
また同じ事を繰り返すのか、またあの終末を見るのか?
嫌だ、もう見たくない。もうあんな光景を見るのは沢山だ。正気の沙汰じゃない!
「どうしたでありますか潔」
「いや、孝雄がおかしいんだ」
おかしくもなる、お前たちは何も分かってない。だからそんな事が言えるんだ。
どうやっても防げない世界終末シナリオを、無限に続くこのループをどう逃れればいい。この二週間で体験したことをどう説明しても、こんな話誰も信じてはくれない。信じる方がどうかしている。
頭を抱えて震える僕の様子はまるで、何かに怯えて動けない子供の様にも見えただろう。だがそれが事実だ。正気で居られるはずがない。科学的に実証でき無い以上信じてもらえない。そんな与太話に誰が耳を貸す、誰が耳を傾ける。誰が信じる。
信じられない話なのは百も承知だ、でも話したところで結局笑われる。そんな未来しか残されていないんだ。
何故そう言い切れるかなんて、普通に考えれば分かる話だ。
マトモな思考をしている人間が、そんな小説みたいな話信じる訳がない。
「なぁ、本当に大丈夫か――あ、おい!」
「何処に行くでありますか孝雄」
僕は走り出していた。
その場から逃げるように、現実から逃げるように、訳も分からない事象から、この狂った世界から逃げ出すようにその場から走り出していた。
何処へ向かう訳でもない、ただ今は走るしかなかった。それ以外何もできなかったんだ。もしも同じ事が繰り返されていたのであれば、もしも記憶がない状態で同じことを永遠と繰り返していたのだとすれば、僕が何もしなければ何かが変わるかもしれない。
本当にそうなのか?