海神の唄 -[R]emember me-

コワレハジメタハグルマ――Re:Ⅱ

 もうウンザリなんだ。
 何度も困惑し、何度も絶望し、何度も諦めて、その度に解決策を考えて実行に移す。それでも世界は収束してしまう、二度同じ景色を見れば分かるさ。コレが世界の終末、コレが地球の終わりなんだろ。コレがお前神様の望んだ結末なんだろう。コレに何の意味があるんだ。

 冗談も大概にしろクソッタレがフザケルナ

 見て見ろこの惨状を。
 見て見ろこの景色を。
 見上げた空は黒く、宇宙に手が届きそうだ。
 酸素も少ない、呼吸するのが精いっぱいなこんな場所で、一体何を求めるんだ。何を期待してるんだよ。僕は何もできないただの人間なんだ、ちっぽけで弱い人間なんだ。
 人選が間違ってるんだ、バタフライ・エフェクトでどうにかなるような問題じゃないんだ。小さな事象が重なって、僅かな誤差を作り出すぐらいしか出来ないじゃないか。
 大局的に世界を動かすような人間じゃないんだ、ただの高校生にアンタは何を期待してるんだ。もういい大概にしてくれ。
 この世界を僕に見せるだけが目的か。
 この惨状を見せるだけが目的なのか。
 フザケルナ!
 その為だけに何万、何億の命を犠牲にしたと思う。
 辿り着いたこの結末を僕が見て、僕が泣き叫ぶところを見たいだけなのか、どうかしてるんじゃないかアンタは。何が楽しい、何が面白い、何が――何がっ!

 あぁ――もうどうでも良い。
 考えるだけ無駄だ、答えない神に問いかけても返事はもらえない。ただ僕が壊れていくだけだ、ソレをアイツは笑ってみているんだ、そんな悪趣味で、つまらない神何て要らない。
 自分の語彙力の無さを呪いたいところだ、言葉に表しきれない全ての負の感情を、この猛思いをせめて言葉にしてアンタに送ろう。

 全てお前のせいだキエテナクナッテシマエ

 衰弱しきっている体に鞭を入れて、ゆっくりと彼女の体を持ち上げて立ち上がる。見渡す限り何も見えない暗い空、吐く息も白く濁らない。大気中の塵が限りなく少ない証拠だ。
 ひび割れた空はもうそこには見えなかった。
 静寂と、僅かな風きり音だけがそこにはあった。僕と、元命の依り代がこの世界に残された感じがして、ただただ虚しくて、ただ悲しくて、ただやりきれなくて――七海の体を残りの力を込めて抱いた。
 コレが世界終末の結果か。
 コレが神が望む世界の終わりか。
 コレが――こんなモノ・・が、執着地点なのか。

 徐々に硬直していく七海の表情は安らかで、笑顔にも見えた。苦悶の表情一つない、ただ何時もの七海の表情だけがソコに残されてて、僕の頬を伝わって流れる涙が彼女の顔に零れる。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 頼むよ。
 頼むからこんな地獄を見せないでくれ、僕はこれからどうすれば良いんだよ。
 彼女を抱きしめる力も徐々に弱まり、ゆっくりと膝から崩れていく。落とすまいと必死に力を入れ、その場に膝をついた。彼女の微笑みを見ながら、泣き崩れ、喚いて、悔やんで、それから……一通りの後悔と悲しみに暮れた後、考えるのをやめた。

 もう死に絶えた星で、僕は一人っきり。何をする事も無い、何かを変える事も出来ない、何をするにも、何をすればいいのかもわからない。
 有史以来、観測された事のない事象にただ無力だった僕達人類が、生命の頂点だと豪語する人間が、成す統べなく滅んで行き、残された最後の人類として記録されるだろう星の息吹。
 それも、残り僅かな時間だと知る。
 徐々に意識は薄れていき、抱き抱える彼女を保つことも難しくなり、ゆっくりと地面へと寝かせる。その横に静かに倒れ込んだ。
 どうせもう最後だ、そう感じたからこそ、もう一度七海の顔を見たかった。薄れゆく意識の中で、彼女の表情を目に焼き付け、僕は笑って意識を失った。

「何してんだ孝雄、置いていくぞ?」

 聞きなれた声が耳元に届いた。
 あぁ、死ぬ前の最後の幻聴って奴かな。潔の声が鮮明に聞こえる。目の前で死んだ彼の声が、聞きなれた声が、何度も聞いてきた声・・・・・・・・・だった。

「おい、孝雄?」

 神よ、もういい。十分だ。
 走馬灯ならもう見たよ、そこに幻聴まで付けてくれるなんて随分と残酷な事をしてくれるじゃないか。いいんだ、もう十分だ。あの地獄に戻りたくないんだ、ゆっくりとさせてくれ。

「おーい、大丈夫か?」

 煩いな、もういいって言ってるじゃないか。
 終わってしまった世界にもう何の未練も無いんだ、静かに逝かせてくれ。僕も、向こうで皆と会いたいんだ。それぐらい許してくれてもいいだろう。

「おいってば!」

 体を引っ張られる感覚で我に返った。
 目の前には死んだはずの潔の姿があって、見慣れた・・・・景色が広がっている。情報が追い付かない、何が起きたのか理解できずに、ただ潔を見た。

「――何で」

 頬から涙が零れる。
 何時もと変わらない景色、何時もと変わらない友達の声、普段と変わらない日常が目の前に広がっている。何が、どうして、どうやって……。

 さっきまでの事は何だったんだ、冷たくなった七海の体は何処へ行った。何故潔が生きている。何故僕は生きているんだ。

「大丈夫かお前、顔真っ青だぞ?」
「生きて、何で……何が、どうして」
「なぁ、本当に大丈夫か?」
「なぁ教えてくれ――今日は何日だ、何年の何月何日だ!」

 潔の服を掴んで叫んでいた、周囲の人達は僕達に一斉に視線を向け立ち止まっている。

「さっきからどうしたんだよお前、恥ずかしいからやめろって――」
「良いから教えてくれ、今日は何年の何月何日だ!」
「分かったから放せってば、痛てぇよ!」

 力任せに潔に振りほどかれ、僕はしりもちをついた。
 痛みがある、コレは夢じゃない、現実だと分かる。それが余計に僕を混乱させた。何事かと周囲の人達が僕達を見つめる中、潔は乱れた服を直して心配そうにこちらを見ている。

「平成十三年の十一月十六日・・・・・・だ、何言ってんだお前」

 一日目――午前九時二十五分。