海神の唄 -[R]emember me-

コワレハジメタハグルマ――Re:Ⅰ

 ×日目――××時

 不思議な感覚だった。
 呼吸が辛く、頭痛が酷い、ゆっくりと意識だけが覚醒していく。体を動かそうにも力が入らない、今一体何メートルの地点に居るのか、地球はどうなってしまったのだろうかと、徐々に思考を回し始める。
 ゆっくりと目を開けると、そこは海公園の一部だった。周囲には何もなく、何処までも広がる黒い空が視界に入って来る。見慣れた青空はそこには無く――宇宙に手が届きそうな気がした。

 これ程空が黒くなっているのであれば、エベレスト山脈の頂上と同等か、はたまたそれ以上かもしれない。だとすればもう僕の知っている地球ではないだろう。地殻が変動し、巨大なクレーターによって発生した巨大地震によって変わってしまった。世界地図もビックリするほどの変わり様だと、生き残ってる人が居れば冗談交じりで笑うかもしれない。

 笑えるものか。
 見ろこの惨状を。何もかもが無くなって、見えるのは真っ黒な空だけ。周囲には何もありはしない。悪い冗談にしか思えない、これが現実だというのなら、その辺のファンタジー小説の方が余程面白みがある。

 徐々に体の感覚が戻って来た。それと同時に何かが僕の体に乗っかっている感じもする。

 そこで、やっと意識が覚醒した。

 あの時、あの状況でこの場所に居たのは僕と後一人。その姿が見えない。
 恐る恐る自分に乗っかっている物に目線を向ける、考えたくなかった、本当は見たくなかった、見るべきでは無かった。知るべきでは無かった。

 そうだ、この状況下の中で僕に覆いかぶさっている物なんて、分かり切っている事じゃないか。
 現実逃避したくなるような、絶望が、底知れぬ感情が再び僕を襲う。

「なな――み?」

 冷たくなった彼女の体が、僕の体を覆う様に、守る様に覆いかぶさっていた。

「七海……七海!」

 言葉を発するごとに脳が揺さぶられる、酸素が圧倒的に足りてない。だが、叫ばざる得なかった。
 こんな事、こんな事があってたまるか。僕達が一体何をしたと言うんだ。繰り返すぞ自称神よ、お前は一体何がしたいんだ。何が目的でこんなことをしてるんだ。答えろクソッタレ野郎!

「何でだよ、何でこうなるんだよ!」

 動かなくなった彼女を、衰弱しきった体で抱き抱える。冷たくなった彼女の体はまだ柔らかかった、死後然程時間が経っていないのだろう。死後硬直は起きていない。
 アレからどれほどの時間が経過したんだ、僕が気を失ってからどれほどの時間を僕に費やしてくれたんだ。どれほど僕の事を守ってくれていたんだ。
 絶望なんて言葉じゃ言い表せない、絶望なんて言葉じゃ生ぬるい。まさに感情として表現することを厭わないこの想いを、一体どこにぶつければ良いんだ。
 何故僕だけが生き残った、何故彼女がこんな目に合わなくちゃいけないんだ、何故世界はこんなにも残酷なんだ。
 何で、何で――何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でっ!

「僕に、何をしろって言うんだよ!」

 あぁ……神様クソッタレ
 多くは望まない、多くは期待しない。だから一つだけ教えて欲しい。もしも神と言う超次元の存在が本当に居るのであれば答えてほしい。
 貴方は一体何がしたいんだ、人類を救う事が使命ならコレは一体何だ。この状況を作り出して誰が得をするんだ、誰がこれを是とするんだ。
 答えろ、答えろよ神と自称する超常現象共。
 この世界は一体なんだ、この事象は一体なんだ、これは現実なのか、夢なら覚めてほしい。夢でないのなら、一体コレは何なんだ。

 ふざけるな。

 預言者も腰を抜かすとはまさにコレの事か? いや、コレが本来あるべき姿の現実なのか、神が導いた先の未来がコレか。悪い冗談にも程がある。
 返してくれ。
 返してくれよ、人が――人として生きられる世界を。こんな何もない場所でただ僕一人残されて、一体何をすればいいんだ。何を求めているんだ。
 二度目だ。
 二度もこんな景色を僕に見せて一体何の意味がある、一体何の得があるって言うんだ。誰も得してないじゃないか、世界を壊すことに何の意味がある。
 後何人生き残ってる、この世界で誰が生き残ってるって言うんだ。両手で数える程か、それとも片手で変え添える程か――それとも、僕ただ一人か!
 この壊れた世界で何で生き残ったんだ、何故僕は二度も生かされた。教えろ自称神様、僕に何をさせれば気が済むんだ、この狂った世界で独りぼっちの僕に、一体何を望むんだ。教えろよ、頼むから答えてくれよ――。