海神の唄 -[R]emember me-

バタフライ・エフェクト―マダミヌソラ―― Re:Ⅱ

 あぁ――疲れた。
 現実と空想の狭間にいる気分がして、何が正しくて何が間違っているのかが分からない。
 それだけに、脳がカロリーを消費している。猛烈な睡魔はそのせいだろうか。それとも疲れから来るものだろうか、思考が鈍足になるのを感じる。

 もう、どうにでもなってしまえばいい。
 どうせ何をしても絶望しかないのであれば、どうせ何も変わらないのであればそのまま身をゆだねてしまっても構わない。
 世界が壊れてしまったのなら、僕自身も壊れてしまっても構わない。
 断りの外れた歯車に身をゆだねてしまえばどれだけ楽になるだろうか、このクソッタレな状況からどんな逆転劇があるって言うんだ。
 なぁ神様とやら、いるのなら教えてくれ。

 今日を生きて、明日どうなるか。それだけ教えてくれれば良い。
 明後日の事は明日考えれば良い。

 ソレじゃダメだろ・・・・・・・・

 ゆっくりと燃える炎が、一度大きくうねりを上げて僕を照らした。
 今どんな表情をしているのだろう、今どんな感情を持っているのだろう。自分以外から見た僕は一体どんな姿をしているのだろう。

「――っ!」

 酷い頭痛と同時に世界が一瞬ブレた。
 何がトリガーポイントだった、何が原因で今世界に影響を与えた?
 もしも僕の思考が世界に影響を与えているとすれば、この感情で世界はどう動く?

 この違和感は何だ。
 思い出せ、この三日間で何を考えた?
 この三日間で何が起きた?

 気が付けば立ち上がっていた。
 世界にノイズが走った時は、必ずと言って良い。僕がこの先の事を考えていた時だ。
 世界がブレて見えたのはその直後、一週間前の記憶と現状がリンクしていない時だ。そうだ、ちょっと考えれば簡単な話だったのではないか。

 ――いや、結論付けるにはあまりにも情報が足りない。
 まだ問題点は残っているじゃないか。
 そうだ、あの電子音の様な声は一体なんだ。
 聞き覚えがあるのは気の所為じゃない、誰かの声に酷似しているあの声の正体は一体なんだ。何故ノイズと一緒に紛れて聞こえたんだ。コレが一番の謎じゃないのか?
 いや違う、論点をすり替えるな。問題なのはそうじゃ無い。それら全てだろう。この狂気染みた世界からどう抜け出せばいい、どうすれば未来を変える事が出来る。
 繰り返された一週間、既に結果が異なっているこの状況で今何をするべきかを考えるんだ。結果的にあの未来に収束するとしても、現時点で何も行動しないのはただの怠惰だ。
 もう一度考えろ。
 現時点で確定している情報は何だ? ノイズが走るのは体験した一週間と異なる事が起きる事象の始まりで、世界がブレるのは体験したことと異なる事が起きた時だ。
 既にあの一週間で体験したことと現状が異なるのに、ノイズとブレが生じるのはなぜだ?
 そうだ、世界に変化が起きるの時の事象として発生しているのなら、現状ノイズとブレだらけだ。だが現時点では微かなブレとノイズしかない。という事は世界は然程あの一週間と変わってないのではないか?

 そう仮定した場合、明日何が起きるのかを思い出せ。
 空の事は一旦忘れろ、四日目に何が起きたのかを思い出せ。
 明日には、この本土にも攻撃が始まる。先制核攻撃による飽和攻撃が始まるのが明日だ。ならば先ずは生き残る事を最優先に考えるべきではないのか?
 そうなったら行動した方が良いのは明白なんだ、分かり切っている事じゃないか。

 なのになぜ体が言う事を聞かないんだ。

 頭では分かっているのに体が言う事を聞かない。
 混乱しているわけではない。いや、混乱はしているのだろう。冷静を装って、見たくもない現実を、ただ静観しているだけじゃないのか?

 いや、多分違う。

 この状況に、ただひたすらに絶望しているだけなんだ。
 見えている現実が本当なのか分からない、分かっている未来が真実なのか分からない。この三日間で得た状況で確信できることはいくつもある。だからこそ絶望しているんだ。

 未来が分かるからこそ、その未来を変えられないかもしれないという状況下の中で僕に何ができるのか、いや、きっと何もできないのではないかと言う絶望が、体を強張らせているんだと実感した。
 バタフライ・エフェクトが引き起こす事象を変える事は出来ない、全てが収束し、結果としてその一点に辿り着いてしまうの量子ビット未来保存の法則だとすれば、この先どの様な悪あがきをしたとして無駄なのだ。

 そう考えていた。

 だからなのだろう。
 無力感で、ただただ空を眺めている時間が、ただ長く感じるのは。

 ”――繧ィ繝槭?繧ク繧ァ繝ウ繧キ繝シ繧ウ繝シ繝峨?√Ξ繝吶Ν2逋コ逕”

 いつかの電子音と雑音が混じった言葉が、頭の中に流れる。
 同時に激しい頭痛に襲われ両手で耳を塞いだ。

「僕に何をさせようって言うんだ、僕は何をすればいいんだよ!」

 憤りを堪え切れず、静寂の星空に向かって叫んだ。
 頭の中は既に混乱を通り越して、思考はグチャグチャだ。現実で起こりえないことが目の前で起こって、体験した一週間をもう一度繰り返して、世界はブレて見え、視界はノイズに侵される。
 極めつけはコレ・・だ。この世界は僕に何を求めているんだ、僕に何を期待しているんだ。教えろ自称神様とやら、このクソッタレな世界で僕に何をさせようとしているんだ。
 この声はお前なのか、そうなら謎解きみたいな言葉を使わないではっきりと言ってくれ。僕が分かるような言語で話してくれ、僕はアンタの様な超次元の存在じゃない。
 僕は人間だ、矮小で臆病な生き物だという事はアンタが一番よく知っている事じゃないか。

 答えろ自称神とやら、お前は本当に何がしたいんだチクショウ。
 そこで自我を保つことを諦めた。