この星で、最後の愛を語る。

第四十八話 アルファセウス Ⅳ

 還元法術リ・ブートで放出したエーテルを再度体内へと取り込み続けるカルナックに対し、全力でその力を使い続けてきたフレデリカとの戦闘力の差は広がる一方だった。しかしカルナックにも肉体的な限界が近づいているのは確かだった。

 体中の関節が悲鳴を上げ、左手で握る愛刀もカタカタと音を立てて必死に握りこんでいる。寝ることもなく、互いに全力をぶつけ合い、消費し続けるエーテルと体力。還元法術リ・ブートに伴う副作用による全身の痛みと精神汚染が、消耗し続けるだけのフレデリカとの戦闘を均衡にしていた。

「綺麗ねカルナック」
「そうですね」

 幾度目かの日ノ出だった。
 満身創痍の二人が同時に東の空から登る恒星を見つめた。
 互いに次の一手が最後になるだろう。そう感じていた。そう思わざるを得なかった、これまでの戦いをひたすら見守るしかなかったシュガーの目から見ても、互いに残された力はほんの僅か。初日のフレデリカの悍ましいほどの力に近寄れなかった彼女は、自分の愛弟子の行く末を見守る事に徹していた。今ここで彼女がカルナックに手を差し伸べれば終わってしまうだろうこの死闘、だが彼女はそうしなかった。
 満足のいくまで戦わせてやろう、その結果どちらが勝っても悔いは残らない。水を差すことを嫌ったのだ。
 それがシュガーと言う魔術師の本懐であり、本質だった。

「楽しいダンスだったわ、御師様も最後まで見守ってくれるようだし満足よ」
「あの人は昔からそういう人です、私達の間に遺恨が残らないようにしたのでしょう。私に肩入れするチャンスは幾度となくあった。それをしなかったのはあの人にとっての美学、いや、ただの我儘でしょう」

 両者は分っていた。
 頑固で、時に優しく、時に恐怖を植えつけてくる自分達の師匠の事を。
 さながら戦争孤児だった彼らからすれば母親にも近しい存在だった、故にフレデリカは威圧することはあっても手を出すことは決してなかった。

「さぁ、ラストダンスと行きましょうカルナック。私の最を賭けて」
「最強か最恐か、残された者が辿り着く最とはもはや一体何なんでしょうね」
「こんな時に哲学? 実にアナタらしいわね」
「性分ですよ」

 シュガーはこの時確かに見た、自身が育て上げた最たる者達が笑っているところを。戦いの中でしかお互いを表現できない不器用な弟子達、それが今最後の一人になろうとしているその瞬間を、シュガーは目に焼き付けることにした。

炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストール」「氷雪剣聖結界ヴォーパルインストール

 互いの髪の毛の色が変化していく。元々銀髪だった両者の髪色は徐々に白く変色していく。
 限界が近い、最悪勝者はいないこの戦いに決着がつく。
 持てる最大の技を、最大の術を、最大の力を互いが走り出してぶつける。
 神速の六幻むげん絶対零度アブソリュート・ゼロがぶつかり合った。

 そのほんの一瞬、そう、まるで瞬きをした瞬間とも言ってもいい、両者の技がぶつかり合う直前。コンマ一秒にも満たない僅かな時の中でシュガーは目の前で起こったことに驚愕した。

「少佐ぁ~……約束と違いますよ」

 若い青年の声だった。突如として現れたソレは両者の攻撃をそれぞれの手で受け止めて涼しそうな表情をしていた。

「手を出すなマイク!」
「お断りします、本来の目的をお忘れですか?」

 シュガーは目の前で起こった事が信じられなかった。
 両者とも消耗しきっているとは言え、自分が育てた最なる称号を持つ二人の技をいとも簡単に止めたのだ。それも時空が歪むほどの精神寒波の暴風の中、表情一つ変えずに。
 法術を断ち切ることは分かる。だがその男は、カルナックへ視線すら向けずに六幻を防いでいた。見たのではない。反応したのでもない。まるで最初から、そこに刃が来ることを知っていたかのようだった。エレヴァファル・アグレメント最狂を倒したカルナックの最強にして神速の技を、まるで虫を払うかのように。

「おっと、失礼」

 同時に短剣でカルナックの愛刀を弾いて見せた。
 驚愕していたのは何もシュガーだけじゃ無かった。
 当事者であるカルナックが一番驚いていたであろう、利き腕ではなくともその技は生身の人間に見切れるような代物ではない。文字通り必ず殺すと書いての必殺技。故に奥義。それをマイクは右手に持つ短剣で全て捌き、あの六幻を無力化させた。

「――アナタは」
「人類最強と言ってもこの程度ですか、それとも全盛期であれば分からなかったかもしれませんね。老いとは残酷ですね最強カルナック

 まさに規格外。
 カルナック自身、消耗しきっていたとしてもその力は、未だ並みの実力者では到底到達できない領域に居る。それを剣聖結界インストールも使っていない生身の男が平然とやってのけた事。同時にカルナックは確信する。

「マイク・ガンガゾン!」
「ごきげんよう最強、楽しいダンスの時間は終わりです」

 噂には聞いていた。
 ガンガゾン一族最強の男、ギズーの実兄であり、その戦闘力は未知数であること。この半年で帝国側に肩入れしていたこと。

「少佐、皇帝陛下がお呼びです」
「マイク――貴様ぁ!」
「私に当たられても仕方ないですよ少佐」

 シュガーは瞬間的に理解した。
 生身の状態で何故あの精神寒波の暴風で動けたのか、シュガー本人ですら干渉することが叶わぬという程の超次元。その正体はマイク・ガンガゾンのエーテル量だった。
 限界にまで消耗しきっていたフレデリカのエーテルが瞬時に回復したのだ、マイクの法術によるものだと思われるが原理が理解できなかった。
 シュガーもまたエーテルを回復させる術を使用することはできる。だが術者本人が著しく消耗するその術を使って尚、マイクのエーテルは溢れんばかりの量を待機中に垂れ流していた。

「それと、例のものを起動させテストします」