「さぁ踊りましょう! カルナック・コンチェルト!」
「フレデリカっ!」
互いのエーテルが中央で衝突した。
あまりにも強大なエネルギーが互いに衝突したことで空間が歪み、まるで巨大な重力によって歪が生まれたのではないかと錯覚させるほどだった。互いに深く、より深層からエーテルを強く練り上げることで地面はクレーター状に窪み、近くにいたシュガーはその場にとどまる事すら出来ずにとっさに空間転移を施していた。
まさに我が目を疑っただろうその対衝突。
シュガー本人の最大出力をもってしてもこれ程迄のエーテル反応を起こせるかどうか、いや、全盛期の彼女であればいざ知らず、現状であればこれ程の出力を引き出すことは困難極まる。それ程の大規模エーテルの衝突だった。
「これ程とは――」
固唾を飲んでいた。
開きっぱなしの瞳孔は二人の姿から離れることを許さず、身動きすることも敵わないプレッシャーに押しつぶされそうになりながら。
大魔術師と呼ばれる純魔族である彼女ですらコレだ、並大抵の人間であれば近くに居るだけで体が量子分解するかもしれない。
互いが互いのエーテル出力を引き上げる、引きあがる出力に付いて行かなければ状況は完全に不利となるこの状況。そして同時にこれはエーテル貯蔵量の勝負でもあった。
未知なる力を得たフレデリカのエーテル出力は、現状カルナックでは計り知れない程だ。この半年間片腕を失った彼が施してきた出力の調整が無ければ十秒と持たなかったであろうこの勝負。
互いの額に大粒の汗がにじみ出てはエーテル反応によって即座に蒸発していた。
しかし、均衡は崩れる。
最初に片膝をついたのはカルナックだった、大きく息を切らしながら最後のエーテルを再燃しようとしている。同時にフレデリカは満面の笑みで見下ろした。
「どうしたのカルナック、随分と苦しそうじゃない?」
「ご心配どうも、ですが――っ!」
周囲に放ったエーテルが再びカルナックの体へと還元されていく。
それを目撃したフレデリカは一瞬驚き、今まで以上のエーテルを放出させる。
「噂に聞く還元法術ね、便利なものね」
「弟子の技です、体の負担が大きいのであまり使いたくはありませんが仕方ありません」
そう、大量に消費し、大気中に離散させた自らのエーテルを再度自分へと装填することによって法術を効率よく使う為に開発された術。だが一度離れたエーテルを再度定着させるには体への負担が大きすぎる為、ここ一番というところ以外は使えない。
二人の戦いが始まってものの数分。カルナックは既に出し惜しみをしている場合ではないと悟っていた。
「苦しそうね」
「見ての通りですよ」
その様子を、指を咥えて見ているだけしかできないシュガーは酷く苛立っていた。カルナックを援護するのに術を使えば、あの二人のエーテルに干渉し、どうなるかが分からないのだ。
文字通り黙ってみているだけしか出来なかったのだ。
「でもコレで終わりだなんて私が許さない」
全力でエーテルを展開しているカルナックの目には、徐々に異形の姿からフレデリカ本来の姿へと戻りつつあった。そして次の瞬間我が目を疑った。
「――どう言うつもりですか」
「どう言うつもりも何もないわ、最初に言ったでしょ。踊りましょうって。コレで終わりだなんて冗談もいいところなのよ。付き合ってもらって言うのも何でしょうけど」
フレデリカはすっかり元の姿へと戻っていた。同時にあふれ出ていたどす黒いエーテルの反応も消えてすっかり元の人間としてのエーテル反応だけを捉えることが出来た。
そして、ぶつかり合うエーテル同士の反応がフッと消え去った。
「確かに私はあの異形の姿に変わってしまった、でも蓄積されたエーテルを全て吐き出せば元通りの私に戻る。再びあの姿になる迄は十日はかかる」
「情けを掛けてるつもりですか?」
「そんなんじゃないわカルナック、私は私として貴方と決着をつけたかった。誰の力にも頼らず、誰の力にも支配されず、何より私という存在に賭けて貴方を倒す。それだけよ」
「その割には随分と、消耗させられた気もしますね」
「お互い様よ、コレでお互い五分。残るは単純な戦闘技術と法術による出力コントロールのみ、さぁ踊りましょうカルナック!」
そこでフレデリカの姿がカルナックの視界から消えた。
両足に込めたエーテルを瞬間的に放出し、カルナックとの距離を一瞬にして縮める。右手に握る十字槍をまっすぐ突き出して襲い掛かっていた。
カルナックもまた左手に握る愛刀を順手に持ち替え、襲い掛かる槍に対して刃を重ねる。衝突の瞬間、二人の間に強烈な衝撃波が発生し、周囲の砂塵を吹き飛ばす。
「利き手でなくてもその速度、ゾクゾクするわ!」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
人の域を超えている。
シュガーが目にする弟子達の一撃一撃がまさに必殺、切っ先でもかすれば部位が吹き飛んでしまうのではないかと錯覚するほどの威力。法術による肉体強化は既にエレヴァファル・アグレメントをも凌駕していることは語るまでもない。
両者のエーテル残量はとっくに限界を迎えていた、臨界を超えた先の力が二人の間で火花を散らし、一撃必殺の攻撃をかろうじてさばいている状況に過ぎない。
まさに死闘だった。
互いが互いの力を認め、攻撃を重ねるごとに上限を超え更なる高みへと昇華していく。何が彼らを動かしているのか。
プライドか、力の誇示か。いや、そのどれでもない。そこにあったのはただ必然にも等しい闘争だった。
休む事も無く、昼夜構わず寝ることすら許されずの戦いが七日続いた。常人ならとっくに限界を超えているであろうその闘争、互いの体は悲鳴を挙げ、一撃必殺の攻撃はもう、見る影も失っていた。