ものの数秒、時間にして本当に僅かな時間静寂が訪れた。
信じられない一言、聞きたくないその言葉、認める事の出来ない現実を耳にした彼等は呼吸をするのも忘れて、ただただ沈黙していた。
聞こえてくるのは車輪が擦れる音、レールの切れ目切れ目で揺れる車両の音、空気を切って走る走行音が彼等の間にリズムよく流れていた。
「――はは」
乾いた笑いだった。笑おうとしているのに、喉の奥で何かが引っかかっている。アデル自身も、それが笑いではないことを分かっていた。
最初に口を開いたのはアデルだった。
限界まで開いた瞳はただ一点、シュガーを見つめていた。
「婆さんも冗談言うんだな、おやっさんが――」
「認めたくないのは分かるが事実じゃ」
アデルがお道化て発した言葉に食い気味にシュガーが被せる。
「吹かしてんじゃねぇぞババァっ! あんなバケモンみたいな人間がそう簡単に死ぬわけねぇだろっ!」
「認めたくないのは勝手じゃがな、目の前で起きた事は事実であり覆らない。現実じゃ小僧」
「――嘘だ、俺は信じねぇ! 信じねぇぇ!」
「アデルっ!」
暴れだしたアデルを必死にレイが押さえ付け、同時にミトが風の法術でアデルを眠らせようと術を練る。
「放せレイ!」
「ダメだアデル! 落ち着いて!」
レイの腕の中で激しく暴れるアデル、突然の事でミトの法術も中々効かない。
「俺は信じねぇ、ぜってぇ信じねぇ! あの人が死ぬ訳ねぇんだ、最強はそう易々とくたばるようなモンじゃねぇんだ! お前も知ってるだろ、あの人が――おやっさんが――」
力で押さえ付けられなくなってきたレイはとっさにアデルの脊髄に水平打ちをした。本当であれば力づくでこんな形を取りたくなかったレイだが、これ以上はシュガーに襲い掛かる寸前だった。
脊髄に衝撃を加えられたアデルは瞬間的に意識を飛ばされてぐったりとした、眉一つ動かさずにアデルを見つめるシュガーの表情はどこか険しかった。そんな風に見えていた。
「ごめんアデル」
「冷静じゃな小僧」
「違いますよシュガーさん、僕だって冷静じゃない。今だって貴方の言葉が嘘であって欲しいとずっと願い続けてるんです、でも事実今ここにあの人は居ないんです。きっと何かあったに違いない、もしかしたら本当に負けたのかもしれない、でもそれでも――僕もアデルと一緒で先生が死ぬなんて考えられないんです」
ゆっくりとアデルの体を床に寝かすとシュガーの問いかけに答えた。
信じられない、その表情はレイもまた同じだった。利き腕を失って尚彼等が束になっても勝てない相手。
カルナックが死んだ。
それがどうしても違和感で、そして信じたくない一言だった。
故にアデルが言葉を信じなかったのもレイは理解できた。負ける姿が想像できなかったからだ。しかし、それよりも何よりカルナックが死んだ事を受け入れられなかった。
「――レイ、大丈夫?」
「分からない、でもありがとう」
涙を浮かべ、袖で拭うレイにミトが声を掛けるもそれ以上の言葉が見つからなかった。
一度強く涙を拭きとるとレイはシュガーをジッと見つめ、深く深呼吸をした。
「――聞かせてください、あの人の最後を」
「良いじゃろう、お主達にはそれを聞く義務がある」