この星で、最後の愛を語る。

第三十六話 オール・フェイカー Ⅱ

 その日の夜、カルナックとシュガーは旅立った。普段の落ち着いた服からエルメアへ着替えたカルナックは愛刀を腰に下げ、左手には荷物が詰まったバックを持っていた。シュガーは着の身着のままだった。こちらに来た時も大した物を持ち込まなかった様で身軽で旅に出る。森に入っていく瞬間まで彼等は二人のエーテルを感知していたが、姿が見えなくなった途端感知することが出来なくなった。瞬間的に移動したのか、はたまた転移魔術をシュガーが使ったのかは分からない。
 そんな二人を見送った後、レイ達もまたカルナックの家を発った。一日二日は滞在する予定だったが事態が事態の為その日の夜に出発したのだ。
 彼等もまた走っていた、ここまで到着するのに三日。道中帝国や盗賊団に襲われたりして時間を食っていたが帰り道は帝国の邪魔が入るだけだろう。早ければ二日でメリアタウンへと到着する。そう、そのはずだった。

「――嘘だろ」

 夜間も移動し続けた一行が砂漠越えを果たし、宿場町へと向かっていた。しかし走れど走れど宿場町は見えず、ついには荒野へと到着してしまった。
 そして、異変に気付いたのはガズルだった。

「何だよガズル、立ち止まって何してんだ」

 ゆっくりと走る速度を落として地面を見つめているガズルにアデルが問いかけた。その表情はまるで信じられないと言った物だ。
 アデルの声に前を走っていたレイ達も異常に気付き足を止めた。

「どうしたんだアデル」
「いや、ガズルが立ち止まったと思ったら足元見て――」

 アデルもまたその異変に気付いた。
 本当に微かだが煤が見えた、こんな所で燃えるものなんてあるわけがない。旅人が暖を取る為に焚き火をしたのかとも一瞬考えたがそれは直ぐに否であると分かった。その煤は小さいながらも周囲に小さく広がっていた。

「まさかとは思うが、ここはケープバレーか!?」

誰もすぐには答えられなかった。あるはずの酒場も、道も、旅人の声もない。残っているのは煤と、砕けた煉瓦と、焼け焦げた匂いだけだった。

 ガズルのその声にレイとギズーも辺りを見渡した、確かに小さな煤が辺りに散らばっている。よく見ると所々に煉瓦が小さな破片となって転がっていた。

「あり得ない、二日だ。たったの二日で街が一つ跡形もなく消滅するなんて事あり得ない!」
「じゃぁこの状況をどう説明する! 位置的にも大体この辺りなんだぞ!」

 必死にレイが否定したがガズルはその発言自体を否定した。
 決して大きな町では無かった。しかし小さい町でもなかった。宿場町として機能する程度は様々な物が備わっていた。それがたったの二日で消滅してしまった。しかしどうやって? それに気づいたのはミラだった。

「周囲に残るエーテル反応から多分、かなりの大規模法術が使われたんだと思う。それも今の僕達じゃ扱うこともできないほどの術式」

 言われてアデルとレイが周囲のエーテルを探った。するとどうだろう。二人の顔色が一瞬で変わった。

「どれほど時間が経ってるのか分からねぇが、この町全体を覆う程のエーテル反応だ」
「それだけじゃないよアデル、濃度もまるで桁違いだ。先生とまでは行かないけど――シトラさん以上の使い手かもしれない。グラブの余裕はこれだったのか」

 感知できないギズーとファリックは再び周囲を見渡した。もしもコレが罠で、彼等が立ち止まっていることがその想定範囲であれば物陰から狙われているかもしれない。咄嗟に二人はそう考えていた。互いにシフトパーソルの使い手であり、仮に自分が敵だった場合どっから狙撃するのが一番都合が良いのかを考える。

「ファリック、お前は南だ」
「分かりました、ギズーさんは北の丘をお願いします」

 二人はそう背中越しで呟くと互いに走り出した。
 狙撃ポイントは二つ、一つは彼等から北側の小さな丘の上。もう一つは南西にある大岩。互いに走り出してそのポイントへと急ぐ。

「ギズー!」「ファリック!?」

 レイとミラが二人の行動を見て叫んだ、そして二人の予想は的中していた。
 ファリックが向かった大岩の陰から夕陽に照らされたショットパーソルが一瞬だけ光るのを見逃さなかった。初弾が発砲されるとファリックの顔数センチ横を掠めていく。ホルスターからコルトパイソンを引き抜くと銃身目掛けて引き金を引いた。
 轟音が鳴り響き岩陰から少しだけ見える銃身に弾丸が命中するとショットパーソルを弾き飛ばした。すると隠れていた帝国兵がシフトパーソルを右手に構えてファリックの前に立ちはだかる。姿を確認したファリックは再び引き金を引いた。その弾丸は相手が引き金を引く前に持ち主のシフトパーソルを撃ち抜き、二発目で使用者の頭部を破壊した。

 同じく北側へ走り出したギズーも小さく光るショットパーソルを見つけると即座に右足のホルスターからシフトパーソルを引き抜き発砲した。
 こちらも同様に銃身に弾丸が当たるとショットパーソルを弾き飛ばすことに成功。そのまま丘を駆け上がって使用者の頭にシフトパーソルを突き付けた。

「舐めた真似してくれるじゃねぇかこの――」

 そこでギズーの言葉が止まった。
 離れた位置にいるレイはギズーの姿をしっかりと見ていた。氷結剣聖結界ヴォーパルインストールを発動させる準備を完了させ、いつでも防御態勢を取れる状態にまでなっていた。しかしギズーの様子がおかしい事に気付いた。