この星で、最後の愛を語る。

第三十三話 砂漠にて Ⅱ

 各自荷物を分担して担ぐと集合場所へと集まってきた。
 町の入り口、つまり砂漠側へと各々集まりだすと彼らは町に一礼してから歩き始めた。見送るのは以前助けた町長の娘とガトー、そして数人の町人である。

「行ってしまいましたねガトーさん」
「あぁ、でもあいつらなら砂漠越えできるだろう。なんせあのカルナック・コンチェルトの弟子なんだからさ」
「そうですね、あの人も今では隠遁生活ですか。またお会いしたいものです」
「あぁ、きっといつかまた会えるさ。この町の英雄に」

 カルナックが成し遂げた武勇伝にはいくつか記録に残されていないものもある。それがこの町ケープバレーでの武勇伝であった。遡ること十数年、まだこの娘が幼子だった頃にまでさかのぼる話である。だが、その話はまたいつか。

 夕方前に町を出発した彼等は急ぎ足で砂漠を駆ける。ある程度行った先に小さな洞窟がある、まずはそこを目指すことになる。と言っても彼らの急ぎ足とは通常に大人でいえば全力疾走に近い移動速度程である、レイの風法術を応用した移動術である。レイを最後尾に設置してそこから追い風を発生させ、またそれとは別に各々の空気抵抗をできる限り減らすことでこれだけの人数ではあるが移動速度を上げることに成功させる。発案はガズルである。
 そのおかげか、出発から三時間ほどで目的の岩場まで到達できた。日はとうに落ちて満天の星空が空に広がっている。日中とは打って変わって気温が大きく下がる砂漠地帯。ここで重要になってくるのがアデルの炎法術だった。持ち込んだ小さな薪を地面に並べるとアデルがすかさず着火させる。すぐに火が付くとその周りを取り囲むように彼らは座った。

「予想以上に早く着いたな、これなら明日の昼には砂漠越えできるかもな」
「まったくだ、流石俺たちの頭脳ガズルだ」

 アデルとギズーが互いに珍しくガズルを誉める。褒められたガズルは照れ隠しのつもりか帽子を少しだけ深くかぶってから眼鏡のずれを直す。

「うるせぇぞお前ら、滅多なこと言うんじゃねぇ。明日は雨か?」
「ははは、こいつ照れてら」

 隣で大笑いを始めたアデルに対してガズルが右腕を伸ばして首根っこをつかんで持ち上げる。流石のパワーだ。

「それ以上何か言ったら首をへし折るぞてめぇ」
「――ごめんなさい」

 一連の流れは、まるで何度も繰り返してきたコントのようだった。乱暴で、騒がしくて、けれど不思議と嫌な空気はない。ミト達三人の目には、それが彼等の日常なのだと映っていた。それがまた可笑しくて仕方なかったのだろう、突然ミラが笑い始めた。

「二人ともおっかしい、本当に仲良いよねアデル達って」
「なんだミラ、お前も首根っこつかんでへし折ってやろうか?」
「いや、遠慮しておきます」

 急にこちらに矛先が向いたと察したミラは一瞬で真顔に戻って全力否定した。

「それにしても大変な一日だったわね、貴方達普段からこんな感じなの?」
「いや、流石にこんな事は――」
「お前らが来てからは大体こんな感じだな」

 レイが否定しようとすると割って入るようにギズーが声を上げた。それもミトを睨むようにまっすぐな視線で。

「確かに俺たちは帝国とやり合ってるから命を取った取られたの殺し合いをしてるが、こんなにあたふたして逃げ回るように身を隠しながら動いてるのは初めてだ」

 左手で煙草をつまむとそれをミトに突き出す。

「良いか? レイやアデル、最悪ガズルがお前らを認めようと俺は認めねぇぞ。大体こんな事態になったのもお前ら三人のせいじゃねぇか、それを何をのんきなこと言ってやがる」
「……そうね、ごめんなさい」
「謝るんじゃねぇ、レイがそうするって言ったから俺も一緒に付いて行ってるだけだ。断じてお前ら三人のためじゃねぇんだ。そこ忘れるんじゃねぇ」

 睨み続けながら煙草の先でミトを指しながら静かに言った。そして立ち上がると岩場の一番高い所へと昇っていく。

「おいギズー、どこ行くんだよ」
「見張りだよ、後で起こしに行くからてめぇは寝てろアデル。後お前らも今の内にきちんと休んでおけよ。特にお前だミト」

 岩場のてっぺんに到着すると胡坐を掻いて遠くにあるはずのケープバレー方向を見つめる。

「お前、常時俺らに治癒法術かけ続けてただろ、この中で一番疲労困憊してるのがてめぇのはずだ。お前は見張りやらなくていいからゆっくり休め」

 その場にいる全員が驚いた表情をした、特に一番驚いていたのはミトであろう。彼女は少なからずギズーからこの一日ずっと敵意を向けられていた事を理解していた、それが今では自分の不注意を言われるだけでなく体の心配をしてくれたこと。それに驚いていた。

「――あなたは私のことが嫌いだと思っていたわ」
「あぁ、大っ嫌いだね。だがそれ以上に俺達の事を思ってずっと治癒してくれてたんだ。それが分からねぇ程俺は愚かじゃねぇ」

 その言葉にどれほどミトはうかばれただろうか、背を向けるギズーに一度深くお辞儀をして再び座ると緊迫していた糸が切れたように意識を失った。そのまま彼等を包んでいた治癒法術は解除された。そしてそのまま体をレイに預けるように倒れた。

「え、ずっと法術使ってたのかこいつ」

 一人だけ、アデルだけはミトが何をしていたのかがわからずに居た。

 二時間か三時間ほど経った頃、レイが目を覚ました。
 眠たい目をこすって岩場の上を見上げると煙草を咥えながらただ一点を見つめてるギズーの姿がそこにはあった。左手にはシフトパーソルを握りしめ胡坐をかいていた。しかし何時でもシフトパーソルを打てるようにトリガーに指を伸ばし、撃鉄は起こされていた。

「なんだレイ、まだ寝てろよ」
「そうなんだけど、目が覚めちゃって」
「知らねぇぞ? 明日もお前の法術が鍵になるんだ。体は休めるときに休ませるのもお前の仕事だ」

 ゆっくりと岩場を上ってくるレイに気付いたギズーが一瞬だけ振り向いて視線を落とした。ギズーの隣にやってくるとレイもその場に座って同様に遠くを見つめ始めた。

「変わったよね」
「あ?」

 突然のセリフにギズーが何事かとレイを見た。

「ギズーのことさ、先生の所に来た時はあんなにトゲトゲしてたのに今じゃだいぶ丸くなったって話だよ」
「お前までそんなこと言うのか? 俺は何も変わっちゃいねぇんだよ――ただな」

 一度煙草を手に取ると深く吸い込んでいた煙を二酸化炭素と共に口から吐き出す。そのまま両手を後ろに回して寄りかかるように上体をそらした。

「少しだけ荷が下りたっていうかよ、あんまり深く考えないことにしてんだ」
「何を?」
「兄貴の事」

 ギズーの兄、帝国含め全大陸で指名手配されている凶悪人として有名な彼――いや、正確にはギズー以外のガンガゾン一族と言うべきだろうか。彼ら一族はこの数十年表舞台ではなく裏の社会、つまり暗殺や殺しを主体とした殺し屋である。ギズーにももちろんその素質はある。並みの戦闘能力ではないのはそのおかげだ。
 だが、ギズーはそんな一族の中でも落ちこぼれの烙印を押されている。理由としてはその弱さだ。確かにギズーは同年代の少年に比べれば圧倒的な力を持つがそれは一族の中では下の下。故に力を求めてカルナックの門を叩いた。

「なんかよ、一族の家業を継ぐ継がないってのは正直どうでも良くなっちまった。まぁ見つかれば力づくでも戻されるだろうけど、戻されたところで今の力じゃまた追い出されるだろうし、何よりお前らと一緒なら追い払えるだろうって考えてもいんだ。その代り迷惑掛けちまうだろうがな」
「お前のお兄さんって、確か――」
「あぁ、全大陸指名手配中の異常殺人研究者マッドサイエンティスト。一族の中でも最高の才能と頭脳を持ち合わせた本当の天才、ただし殺しのだがな」

 二つ名を永久殺戮機関キラーマシン、本名『マイク・ガンガゾン』。
 ガンガゾン一族の中でも剣術、槍術、体術等様々な方面で一つ頭が抜けた今代の長男坊であり戦闘能力は歴代でも一位二位を争う。初代である『グリフ・ガンガゾン』と同等とも言われている。その強さ故裏世界の中でも狙われる事が多々ある。しかし、そんなマイク・ガンガゾンが最後に表世界裏世界併せて目撃情報があったのが半年前。丁度レイとギズーが別れ離れになったになった時にまで遡る。

「お前と逸れたあの日な、兄貴に会ったんだ」

 森の中で逸れた二人だったが、あの日ギズーは接触していたのだ。あの悪魔に。

「仕事があるから手伝え、終わったらまた暫くしたら迎えに行くって言われてよ。まぁそれっきり姿はまるっきり見なくなったがな」

 あの当時であれば間違いなくレイはマイク・ガンガゾンに勝つことは出来なかっただろう。現状であればそれなりの戦いにはなるとギズーは予想するがそれでも勝率は八対二で劣勢。しかしあくまでも単騎で挑めばの話だ。