この星で、最後の愛を語る。

第十五話 剣聖結界 ―深層意識と心象世界― Ⅱ

「うわっ!」

 アデルの意識が戻ってきた、エーテルバーストを引き起こしていた体は宙にとどまっていたがアデルが目を覚ましたことで急にベッドへと落ちる。

「ててて……もう、何が何なんだよ」

 右手で腰をさすりゆっくりと起き上がる、先ほどの深層意識での出来事は鮮明に覚えている。かすかにだが体に漂う炎のエレメントを感じ取っていた。
 ベッドから起き上がったアデルの目に真っ先に飛び込んできたのは吹き飛ばされたドア、そして粉々に吹き飛んでいる廊下の一部分だった。

「何だ何だ? 人が寝てる間に何が――レイ?」

 隣のベッドに目をやる、そこには同じく深層意識の中に飛ばされたであろう友人の姿がなかった。アデルは別のところで寝ているのだろうと勝手に解釈して部屋から出る。

「っ!?」

 絶句した、粉々になっていた廊下は一部分だけではなくリビングにまでその破壊は及んでいた。

「本当に何があったんだ?」

 吹き飛ばされた家具をどかしながら部屋の中を捜索する、テーブルはひっくり返り椅子は壊れている。まるで何かに襲われたかのような有様だった。周りを確認しながら歩いていると突如表から巨大な音が聞こえてきた。

「表?」

 アデルは腰に備え付けた鞘から剣を引き抜く、両手に構えゆっくりと玄関のほうへと近づいていく。玄関も木っ端みじんに砕かれていた。恐る恐る外を覗くと見慣れた背中が見えた。

「レイ?」

 その瞬間だった、突如としてレイの足元から魔法陣が浮き上がり彼を一瞬にして氷漬けにした。我が目を疑った、レイの前にいたのはカルナックを初めとした見慣れた顔が並んでいる。

「なんだ……何をして――」

 氷漬けになったレイはものの数秒と経たずにその氷を壊した、その姿を見たアデルはホッと息をつくのもつかの間聞いたことのない親友の咆哮を耳にする。

「っ!」

 思わず耳を塞ぎたくなるような咆哮だった、身の毛がよだつ様なその叫び声に親友の面影は見えなかった。揺ら揺らと揺れながら感じた事のないエレメントを漂わせるレイにアデルは戸惑い少し怯える。

「――っ!? やめろおやっさん!」

 一瞬の出来事だった、無意識のうちに深層意識の中で繰り返し行った炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストールを行う。本能のままに剣を構え二人の間に割って入るかのように跳躍する。現実世界でアデルが初めて剣聖結界を使った瞬間だった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 三度咆哮が響き渡る。その声はレイの透き通った声ではなかった、まるで獣。人ならざる者、野獣の咆哮にもよく似ていた。次第に体全体に黒い瘴気を漂わせるようになる。その姿を見たカルナックは確信する。

「ここが、彼の旅の末路ですね」

 カルナックは一度刀を鞘に納めると法術のギアが一段上がる、今まで誰も感じた事のない量のエーテルがカルナックの体を覆う。雷光剣聖結界ライジングインストールを帯びた体はスパーク現象を起こし近くにあった木々にカルナックの体から雷が襲い掛かる。

「恨むなら恨みなさいレイ君」

 レイが大きく霊剣を振りかぶるとカルナック目がけて走り出した、それに続くようにカルナックは居合の姿勢で瞬時に近づく、先ほどより速い速度で。
 霊剣が振り下ろされる前に先にレイの懐に入る、そして神速の如き速さで刀を引き抜きレイの首を跳ねようとした。しかしその刀は鞘から放たれたところで急に動きが止まった。アデルだった。
 黒く長い髪の毛は真っ赤に染まり、アデルの通ったところには炎が上がっている。右手に構えるグルブエレスでカルナックの刀を受け左手のツインシグナルで霊剣を受け止めていた。

「何をするつもりだあんた!」
「そこを退きなさいアデル、もう君の知るレイ君ではありません!」
「ふざけんなっ!」

 双方の剣を力任せに弾き一回転する、弾かれた両者は後ろへと体をのけ反る。そこでアデルの剣聖結界は途切れた。グラっと姿勢を崩し膝から崩れようとした時霊剣が再度振り下ろされる。それをカルナックは見逃さなかった。
 カルナックの持つ刀は霊剣へと一直線に向かい刃同士がぶつかる。その中央でアデルは倒れた、だが意識は失っていなかった。剣聖結界の反動で全身から力が抜けてしまっていた。

「ガズル!」

 倒れこんだアデルが叫ぶ、後方でしりもちを付いていたガズルはその声で両手を正面に持っていく。

「いきなり出てきて面倒かけるな!」

 すぐさま重力球を作るとアデルの体についている金属の装飾品を引き寄せた、アデルの体はカルナックの下半身をすり抜け引き寄せられていく。途中雪の吹き溜まりに体がぶつかり宙に浮いてそのままガズルの元へと落ちた。

「状況は!?」
「レイがエーテルバーストしたんだ、それから無差別に攻撃してきてずっとこんな調子だ!」
「そんな――」

 引き寄せられたアデルの体を支えるために重力球を潰し両手で抱きかかえるように受け止めた。そしてガズルがすぐさま治癒法術でアデルの体を回復し始めた。
 目の前ではカルナックがレイの攻撃をさばいている、隙あらば攻撃を叩きこむも再生した障壁によってそれは全て塞がれてしまう。もう一度破壊しようにもその強固すぎる障壁はびくともしなかった。

「なんて固い障壁だ」

 カルナックが思わずそう零した。法術の強さを一段上げた剣聖結界ですらその障壁を破ることができずにいる。ここまで強固な障壁はカルナック自身でも作り上げることはできないであろう。まさしく鉄壁、絶対防御と呼べるほどの代物であった。

「しまった!」

 レイを覆い被る障壁をどうにかして破壊したいカルナックはその脆弱なところを探していた。だがそこに一瞬の隙が生まれる。ほんの一瞬霊剣から目を離した瞬間、カルナックの刀は左斜め下から振り上げられる霊剣によって弾かれてしまう。刀は空中に高く舞いカルナックの手から離れる。振り上げられた霊剣はそのまま体を回転しながら今度は左から横いっぱいに振りかぶられる。遠心力を利用して力任せにカルナックの体目がけて刃が襲い掛かろうとしていた。

「させるか!」

 刀が弾かれるのを見たアデルはすぐさま立ち上がりグルブエレスとツインシグナルを互いに交差させる、刃同士を少しだけ接触させるとそこからおびただしい量の熱量が発せられる。その熱量は高温になり一瞬にして辺り一面を光で包み込む。

「逆光剣!」

 カルナックが使った技だった、もともとアデルが思いついた我流奥義。ほんの一瞬相手の目を眩ませるだけでいい、その間にカルナックが体をひねる等して霊剣をよけてくれればそれでいい。そうとっさに思いついた行動だった、だがそれが思わぬ結果を生み出す。
 逆光剣によって放たれた光はその空間を照らし出すとレイの体に覆いかぶさっていた剣聖結界をほんの僅かだが取り払うことができた。同時にレイの動きもぴたりと止まる。カルナックはそれを見逃さなかった。

「アデル、もう一度逆光剣を! シトラ君ももう一度封印の準備を!」

 振りかぶられた霊剣はカルナックの鼻先数ミリのところで空を切る。再び動き出したレイは先ほどと異なり動きが鈍くなっているように見えた。

「早く!」

 カルナックが叫んだ、同時に自身もその場を蹴って空に舞う。ひらひらと空を舞っている自分の刀を右手でつかむとアデルと同じ構えをとる。

「よく分からないけど、もう一発だな!?」

 目の前に目標を失ったレイはその先で両手の剣を構えているアデルを発見する、それ目掛けて大きな咆哮を一つ。続けて目にも止まらない速さで突っ込んできた。だが先程までの移動速度ではなかった。ガズルはアデルの前に立ち塞がり左手に重力球を作りそれを前方いっぱいに展開する。突っ込んできたレイはその重力波に霊剣を突き立てる、一直線に突かれた霊剣はガズルの左頬を少しだけかすめてアデルの目先で止まる。続いてギズーがシフトパーソルで霊剣を打ち抜く。弾丸はアデルとガズルの間を通り抜け幅広な霊剣に着弾する。その衝撃はレイの右手から霊剣を弾き飛ばすことに成功する。

「「逆光剣!」」

 アデルとカルナックが二人同時に叫んだ、先ほどよりさらに明るい光が辺り一面を覆う。するとレイの体に纏わっていた黒い瘴気が剝がれていく。だがまだ若干体にまとわりつく瘴気が残っている。

「まだまだぁ!」

 瘴気が剥がれるのを目にしたアデルはここでやっと確信する、自身も知らず知らずの内に自身の技にこんな効果があるのかと若干だが目を疑った。

逆光剣連撃衝ぎゃっこうけんれんげきしょう!」

 一度交差した剣を今度は光を放つところに向けて同時に双剣を叩きこむ。光はその衝撃でさらなる光を放ちレイにまとわりついている瘴気をすべて振り払った。

「今ですシトラ君!」

 カルナックは空中からその様子をしっかりと見ていた。まとわりついていた瘴気が完全に振り切れたのを確認した後彼らの脇で再び詠唱を開始していたシトラに合図を出す。先ほどの魔法陣が残っていることもあり今度は短時間で準備を終わらす。

「みんな退いて!」

 その言葉を聞きアデル達三人はそれぞれ別々の方角に飛び出す。レイの周辺に誰も居ないことを確認したシトラは先ほど発動させた魔法陣を再度活性化させる。

「絶対零度」

 再びレイの体は巨大な氷に覆われていく、先程とは違いそれに抗う様子は一切見られない。意識がなくなっているようにも見えた。振り払われた瘴気はレイの体がすべて凍り付く前にほんの僅かな量だけ体の中に戻っていった。