この星で、最後の愛を語る。

第八話 語り継がれたおとぎ話―幻魔大戦― Ⅱ

 目の前は真っ暗だった。身体が重い。指一本動かせない。少年は、暗闇の中に浮かんでいるような錯覚を覚えていた。

「……ここは」

 顔を動かそうとしても自由に動けない、どうして良いか分からずしばらくはそのままの状態でボーっとしていた。
 どの位の時間が経ったのだろう、突然からだが軽くなった感じがした少年は徐に状態を起こそうと身体をひねった。それは簡単に動きそして宙に浮いていた身体を地面に立たせる。

「さっきからずっと真っ暗だけど今は夜なのかな、でも今は冬だし、もしも夜ならこんなに暖かいはずはないんだけど」

 少年は不思議な感覚にとらわれながらその真っ暗な空間を歩き始めた、何処までも続く闇をただ歩き続ける。暫く歩くと一つの光が見えた。ライトで照らした様に一点だけが明るくなっている、そしてそこには扉があった。

「……」

 少年は黙ってその扉を見つめる、何故こんな所に扉があるのか、何故扉なのかと自分に問いつめながら一つの決断をした。

「出られるかな?」

 少年は少し笑いながらその扉のドアノブを回してドアを内側に開けた。するとドアの中から突然光があふれ出して少年の居た空間を明るくてらす。

「っ!」

 突然の光で少年の目は眩み視力が回復するまでにしばらくの時間が掛かった、ようやく正常の視力を取り戻した時少年は暖かい空の下にいた。

「何処なんだここは」

 辺りは一面の花畑、そよ風が何とも心地よい春の陽気に近い温度だった。自分以外に人間は居ないかどうか辺りを見回すがやはり誰もいない、有るのは一面の花と、一本の樹。それもとてつもなく大きな樹だった。

「すごい、樹齢何百年って有るんだろうな。こんな樹見た事無いよ」

 少年は初めて見る壮大なスケールの樹に近づいた、どっしりと構えた樹に圧倒されながら少年は樹に手を触れた。

「凄いなぁ……この樹はいろんな人の人生を見て来たんだろうな」

 暫く樹に触れていた少年は今自分がもの凄くちっぽけな存在みたいに感じてきた、そしてその樹に身体を預け地面に座る。
 少し丘になっていて樹の根が盛り上がっている所に座っている、アグラをかいてその足の上に手を乗せる。にっこりとしながら丘から見る景色を少年はとても綺麗だと思った。

「ん……」

 ふと少年の目に何かが映り混んだ、人のような人形のような。遠くからではハッキリと何だか分からないほど遠い物が見えた。
 だがそれは瞬時にして移動し少年の方へと近づいてくる、音もなく空間を移動しているように思えた。そして少年の目の前にたどり着く。

「君は?」

 少年の目の前には見た事のない少女が立っている、身体中傷だらけで顔面蒼白。今にも死ぬんじゃないかというほどの出血も見られる。

「やっと会えましたね、レイ」

 少女はにっこりと笑うと少年の名前を呼んだ、レイと呼ばれた少年はまだあどけないく、幼さが残る小さくて純粋な顔をしていた。

「僕の事を知ってるの?」

 レイは首をかしげて言った、笑顔のまま何も言わずに目の前に立っている少女は少しずつだが身体が消え始めていた。

「今はまだ分からないと思う、でも……いつか、きっと分かるときが来るでしょう」
「きっと?」

 少女はほとんどからだが消えた状態でレイの質問に答える、だがその答えはレイの考えている事を更に分からなくさせる答えだった。

「貴方に、大切な人が出来たときです。でも……それは私にとっても、貴方にとっても最後の戦いになるでしょう。それでも、貴方は最後に大切な人を守り、大切な仲間を守る事になります。その時、私が誰なのかが分かります」

 そう言い残して少女は消えてしまった。

「待って、最後の戦いって何なの? 大切な人って、大切な仲間って……」

 レイは必死になって叫んだ、だが何も返事は返っては来なかった。そして周りの景色が急にぐらつき辺り一面が最初にいた暗い場所と同じ状態になった。
 だが、その暗闇はすぐに解けて何処か、見た事のない場所へと導いてくれた。

「……」

 レイの目の前には紅く染まる空と、やけ焦がれた大地があった。草木は焦げ、空気はどことなく焦げ臭いニオイがした。とてつもなく嫌な感情と今までに体験した事のない圧迫感にレイは怯えた。

「あ……」

 視線を横に移すと何処かで見た事のある少年が剣を構えて立っている、その周りには七人の少年の姿も見える。

「幻魔ぁ!」

 青髪の少年は傷だらけの身体だった。少年の目の前には邪悪な生き物に立っている、邪悪な生き物の横には二人の少年が不思議な光を身体から放射し邪悪な生き物の身動きを制御していた。
 邪悪な生き物に縦一閃、見た事のある剣が振るわれる、だがその剣は無情にも手応えのない事を傷だらけの少年に知らせそのまま空振りをした。

「無駄だ、我に傷を付ける事は出来ぬ!」

 邪悪な生き物は自分を縛り付けている目には見えない鎖が弱まった一瞬に二人を吹き飛ばした。
 青髪の少年を残し他の七人はその場に倒れ込んでいる。後のこっているのは青髪の少年ただ一人、左肩を負傷している青髪の少年が渾身の力で剣を握る。

「マダだっ!」

 天を仰ぎ剣を両手に構え前に倒す、すると剣から突如光が溢れ邪悪な生き物以外を光で包み込んだ。

「こ、これは!」

 邪悪な生き物が一瞬怯む、唯一にして絶対の力を発揮するその光に邪悪な生き物は怯える。
 そして直ぐさま邪悪な生き物は我が目を疑った、そこには倒れているはずの七人の傷が見る見るうちに治癒されていく、その中心に青髪の少年の姿が見える。

「今は倒す事が出来なくても、封印は出来る!」

 八人が一斉に走った、青髪の少年以外の七人が邪悪な生き物を取り囲みその手から不思議な魔法陣が浮き上がる。
 その紋章は次第に消え、邪悪な生き物を中心とする七人を取り囲み邪悪な生き物の頭上に一つの亜空間が生まれた。

「これで最後だ!」

 青髪の少年がその魔法陣-結界の中に強引に入り込み剣を邪悪な生き物に突き立てる、凄まじい光に包まれた剣が邪悪な生き物の身体を貫き通すと青髪の少年はそのまま邪悪な生き物の身体を亜空間のひずみに放り投げた。
 邪悪な生き物の身体は少しずつ、少しずつ亜空間のひずみに吸い込まれていく。だがその力は次第に失われていく。

「私は絶対だ、これ位の力では私は封印出来ぬ」

 青髪の少年は後少しという所で邪悪な生き物が無理矢理空間を開けて出てくるのを見た、だが次の瞬間青髪の少年の隣に居た二人が邪悪な生き物の方へ跳躍する。

「ミカエル! ヘル! 何をするつもりだ!」

 青髪の少年が叫ぶ、だが二人は跳躍している間に小さく残った者達へと

「じゃあな」「後は頼んだ」

 と小さく呟いた。
 二人は邪悪な生き物を無理矢理その空間に押し込め、自らもその空間に入った。

「やめろぉぉぉぉ!」

 青髪の少年が叫ぶ、だがその声は虚しくもその空間にただただ響いているだけだった。

 そしてまた暗闇が支配する世界へと変わった。レイは今目の前で行われた戦いが一体何を意味しているのかがサッパリ分からずただ黙ったままだった。

「僕は、あの人達を知ってる。あの人達を見た事がある。でも……誰だかは分からない、今何が起きた? このひどく懐かしい感じは何なんだろう。あの人達は誰なんだ。それに、幻魔って何なんだ。あの少女は誰なんだ……何で何も分からないんだよ! おとぎ話の話だろう!?」

 自分が情けなくなって、とうとう苛立ちがこみ上げてきた。目の前で起きた出来事が理解出来ない。自分の中に湧き上がる感情も分からない。分からない事ばかりが積み重なっていく。そのことが、レイにはどうしようもなく腹立たしかった。

「貴方が悪い訳じゃない」
「誰だ!」

 突然暗闇の世界で声が聞こえた、その声に反射的に反応したレイは辺りを見回す。気付けば自分の身体が元の大きさに戻っている事を知る。

「今のは、星の記憶」
「メル?」

 レイは聞き覚えのある声だという事に気が付いた、そしてその声の主であろう名前を口にする。暫くすると暗闇の世界で一つの光が生まれた。
 その光にてらされるかのように一人の少女、メルが立っていた。

「貴方は、誰にも止められない運命を背負って生まれた。貴方のレールは、もう誰にも変える事は出来ない」
「メル、君何を言って――」
「私はただの番人に過ぎない、私の役目は貴方を扉まで誘導する事なの。だから、扉は貴方が開けて」
「……メル?」

 レイはメルが何を言っているのかが全く理解出来なかった、勿論メルが嘘を言っているようには見えない。ただその話は信じがたい内容ばかりであった。

「私はカギではないの、カギは……既に貴方が持っています」
「カギ、運命、番人、扉。僕には何のことだか全く理解出来ないよ!」
「今は、それで良いのよ。その内分かる事だから」

 メルが微笑むとレイは何も言えなくなってしまった、そしてその言葉に先ほどの少女の顔が横切った。

「メル、君は何者なんだ?」

 メルは笑顔でそう言うと先ほどの少女のようにゆっくりと消えていく。そして全てが消えた所で暗い空間が真っ白に明るくなった。